『村上春樹にご用心』(内田樹、アルテスパブリッシング)を読みました。
面白い。
先日アフターダークのことについては書きましたので、それ以外について。
■【読了】アフターダーク(村上春樹著、講談社)
本書では、村上春樹氏が
①邪悪なるもの
②死んだ者
③みんなが知らないもの(本人も知らない)
について書こうとしたのではないか、とういことが説かれていました。
①については、それらがときに“意味のない悪意”すなわち純粋な混じり気なしの悪意として、出てくるという。
ひょっとしたら、それは一部には(卵と壁の話における)“システム”のことを言っているのかもしれない。
アフターダークで言うところの「タコ」なんかは多分“システム”のことですよね。
その他、「仮面の男」「白川」あたりも「邪悪なるもの」に含まれる気がします。
ただ、「フルフェイスの男」については、私の中ではどこに置いたもんかと微妙なところです。
センチネル…ではないんだろうけども…もやもやしています。
②については、死んだ者というか、「生きた者を書かない」というテクニックのようです。
これは、③にもつながる要素で、死者というものが世界共通の意識だから彼の作品は世界に広く受け入れられているのではないかと本書は論じていました。
「私が知っていることは、皆も知っている」ということはほとんどないが、「私が知らないことは、皆も知らない」ということはよくある。
だから、彼は「生きていない者」=「死者(のような者)」ばかり描くのだと内田先生は言います。
そして、死者という概念はまさに「私も知らない。皆もの知らない」のケースに該当する概念の一つであり、村上春樹氏はこの「知らないもの」を書くのに長けている、というのが内田先生の認識のようです。
つまり、村上氏の扱う題材自体に、言語の壁を跨ぐような共通理解を得る素質があるということですね。
ーーー
他にも、村上作品への批評に対する提言や、内臓の痒みを例にした言葉の運用能力獲得法など、さまざまなおもしろポイントが満載でした。
村上作品について、こんなにいろんな観点から書いた本って他にあるのでしょうか?
ぜひ近いうちに「もう一度村上春樹にご用心」(ひょっとして文庫版なのかな?)も読んでみたいと思いますし、内田先生以外の方の村上分析も読んでみたいなぁと思いました。
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