本作を読むのはこれが2回目で、確か最初は高校時代。
読んでても舞台の景色は霞んでて、どんな話が進んでいるやらあやふやなまま読み切った、そんな記憶があります。
ところが、30代になり、改めて読めばその情景は湧きやすく、まるで映画を見るように楽しめました。
なるほど、20代は大人への階段だと言うわけですね。
ということで、今回のこの読書体験は、少しだけ私に希望を持たせてくれました。
つまり「今わからなくても、そのうちわかるかもしれない。時期が悪かった」ということが起こりうるというモデルケースになったように思います。
少しだけ難しい本にも挑戦していいかも?という気分です。
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さて、どうして10年以上ぶりにこの本を手にしたかといえば、内田樹先生の「村上春樹にご用心」で本作が紹介されていたからです。
氏は本作のことを
二人のセンチネル(タカハシくんとカオルさん)が「ナイト・ウォッチ」をして、境界線のギリギリまで来てしまった若い女の子たちの一人を「底なしの闇」から押し戻す物語である(『村上春樹にご用心』P66)と紹介していて興味を持ったからです。
(そんな風に読めた小説だっただろうか?)…ということで、読んでみました。
それで、私はこの本を「様々な対比の交錯するのがこの世界」ということと「その対比の境界は結構あやふや」ということを表現している本だと思うようになりました。
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まず、物語は「昼の世界」に対する「夜の世界」が舞台になっています。
そこにやってくるのが主人公のマリ、昼の住人です。
マリは気づくと夜の世界の出来事に巻き込まれていく。
昼と夜を行き来するタカハシがそれを仲介する。
ラブホテル「アルファヴィル」の人たちは、「かつて昼の世界にいたが今は夜の住人」である。
その中の一人、カオル(アルファヴィルのオーナー)はバイクの男(悪)と対比した善として描かれている。
バイクの男はまた夜に棲む悪として、白川(昼の世界の悪)と対比されているのだろう。
そうなると、エリ(マリの姉。寝続けている)はどう解釈できるだろうか?
エリはマリに対する姉という形で、姉妹の対比であるとともに、精神世界と現実世界の対比を表しているのではないだろうか。
また、エリが精神世界に行くときには仮面の男が関わっている。
この男はベクターとしては、タカハシと同じような役割を持っている。
つまり、現実世界のベクターと精神世界のベクターとして対比されているように思われる。
さらには、カメラの存在も私達の世界と小説の世界の対比を表す装置として描かれている。
しかも、私達読者を作品内の登場人物に対して「逃げるんだ」というメッセージを投げかけることのできる装置として機能させられている。
つまり、様々な対比があり、それらは対比されながらつながっている。
そして、ベクターを介して、あるいは介さず、どちらの世界にも一歩を踏み入れそうになって(あるいはすでに踏み入れてしまって)いる。
「今」分けられている「あっち側」と「こっち側」は簡単に開通してしまうのだ。
タカハシが大学の課題で裁判の傍聴へ行った際の感想として、以下のことを述べていますが、
2つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかもしれないぞって。もしあったとしても、はりぼてのペラペラの壁かもしれない。ひょいともたれかかったとたんに、突き抜けて向こう側に落っこちてしまうようなものかもしれない。というか、僕ら自身の中にあっち側がすでにこっそりと忍び込んできているのに、そのことに気づいていないだけなのかもしれない。そういう気持ちがしてきたんだ。(同書P141-142)これがまさにこの物語のサマリーのように思えるのです。
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余談ですが、タカハシはこれをタコのような生き物の仕業と考えました。
多分これは、「卵と壁」のスピーチで言うところの壁(つまりシステム)に当たるものなのでしょう。
(参考:書き起こし.comのスピーチ書き起こし内容)
こうした作品ごとの「つながり」を考えられるようになったのも、私が年を取ったからかもしれませんが、こうも楽しく読書ができるのなら、年を取るのも悪く無い気が致します。
内田先生は、村上春樹にご用心の同じ記事の中で、アフターダークと1973年のピンボールがつながっていることを指摘していました。
ということで、先日一緒にピンボールも買ったので、近いうちに読んでみたいと思います。
ピンボールは実は私の一番好きな作品なのです。
でも、どこがどう好きだったのか、いまいちうまく言葉にできない。
風の歌を聴けにも似た気だるさが良かったような気がするのですが…ちょっと読んでみてまた書いてみたいと思います。
ただ、多分10代の私が読んだときに感じる感動とはもう違うんだろうなぁという予感がします。
何事も、良し悪し両面があるものですね。(まだ読んでもないのに)
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