東京・銀座のシャネルネクサスホールで開催されている美術展「ピエール・セルネ&春画」に行ってきました。
ピエール・セルネさんのカップルたちのヌード写真をシルエットで描いた作品と、江戸時代の春画というなんのぼかしもない作品を一緒に展示させることでその対比を楽しむ、といったもの。
随所にのぞき穴が拵えられており、そこから覗いて観るセルネさんのシルエット写真は確かに艶めかしいというか、こちらが恥ずかしい気持ちになります。
(あくまでシルエットなので、その絵を観て「お、これは…」と思うことは、つまり自分がそういう想像をしている、ということを認識することなので、これがなかなか恥ずかしい)
なのに、覗くのをやめることができないというか、絵を凝視してしまうというか、そんな心持にさせる趣向が面白いです。
春画の作品としては、喜多川歌麿、鈴木春信、鳥居清長、鳥文斎栄之、葛飾北斎の作品が展示されています。
かなり有名所の作品ばかりで、しかも人も少なく、ゆっくりと鑑賞を楽しむことができました。
作品も厳選されているので、一つ一つをじっくりと観れます。
大きな企画展もいいですが、私は、美術鑑賞というのはこういう環境でこそしたいと思います。
特に素晴らしいと感じたのは、鳥文斎栄之作の『源氏物語春画巻』。
おい源氏、やり過ぎだろ!と笑ってしまうのはもちろんですが、局部の濡れているべきところに透明な絵具で上塗りがされており、しっかりと濡れているように見えるようになっている点が、細かいなぁと感心してしまいました。
しかもちゃんと液体がまとわりついているような形に塗られています。
これは多分現物を観ないとなかなか鑑賞できないでしょう。
現物を観に行くことの意義を再確認させていただきました。
後は、鳥居清長の『袖の巻』の一部。
(リンク先の画像参照)狭い構図の中で寝そべる二人の顔が、あまりにも満ち足りた表情なのがたまりません。
性の喜びを素朴に、大胆に、行為の後として描いているところもいいなぁと思います。
それから、北斎の絵を観ると、どうしてもくずし字が読みたくなりますね。
読めない自分が悔しくなる気がします。
なかなか時間は取れませんが、少しずつでもくずし字の練習をしたいと思いました。
今回の展示は前半とのことなので、時間が合えばまた後半にもお邪魔したいと思う展示でした。
カップルで来ている客が半数ぐらいあり、大変うらやまし限りでしたってのは余計ですね。
春画に興味のある方は、絶対に行くべき展示です。
こんなにゆっくりと、現物の名作を鑑賞できる機会はそうないのではないかと思います。
しかも無料。
私はこれまでシャネルというブランドに関心がありませんでしたが、今回の展示を楽しんだことで、今後見る目が変わりました。
作者の選出も王道ですし、それぞれの作品もその作者の代表的なものとして紹介されるものが多々ありますから、私のような美術に感心を持ち始めた初心者にもおすすめできると思います。
繰り返しますが、素晴らしい展示でした。
【読了】春画入門(車浮代著、文春新書)
春画を鑑賞するための基本の「き」を解説する入門書。
本当に、入門!という感じで、すぐに鑑賞に役立つ基礎知識がまとめられていました。
特に面白いのは、技術について詳細に説明をされていることです。
前提として、すでに江戸時代には、現在もある出版のシステムのようなものが確立されていて、版本(企画、立案)したものを絵師、彫師、摺師の三者が共同で作る形になっていたようです。
そして、大体、私たちはいつも絵師のことばかり話題にしますが、実は浮世絵の作成について一番重要なのは彫師なのだそう。
そして、次が摺師で、絵師は実は割りとかんたんになれる仕事だったようなのです。
絵師が優秀な彫師に下絵を渡す際には、下絵の髪の部分などにどう描くか文字で指示書きしておけば、後は彫師が掘ったというのだから驚きです(例えば、頭に髪型(丸髷など)の指示書きをしたりした)。
そして、彫師の技術は、1ミリの中に3本の髪の毛を彫ると言われているくらい、精巧なものであったということが紹介されていました。
また、摺師についても、彫師同様職人適な技術が求められますが、彼らの技術があったからこそ、版画にグラデーションを凝らしたり、エンボス加工をしたりということができたのだそうです。
ちなみに、摺師によって、最終的な作品の出来は大きく変わるらしく、だいたい最初の摺りを熟練者がやるため、次第次第に絵の色合いや重ね方が雑になるということが説明されていました。
面白いですね。
本書の良い点は、西洋に与えた影響にも言及をしているところだと感じます。
1800年台後半のパリ画壇が重視する写実主義に対して登場した、後に印象派と呼ばれる画家(例:モネ、ドガ、ルノワールなど)も浮世絵(春画も含むかもしれない)に影響を受けているとのこと。
そういうことを知ると、また美術展に行きたくなってきますね。
先日読んだ『春画の見かた』(早川聞多著)のときにも思いましたが、やはりくずし字を読めるようになりたいという思いが溢れ出ています。
すごいモチベーションに包まれて、まるで超サイヤ人になったような気分です。
実はもう、くずし字の練習に関する本を図書館に予約をしているので、借りたら勉強を始めたいと思います。
30代子持ち男性サラリーマン。
【読了】春画の見かた(早川聞多著、平凡社)
-
- 春画の見かた (コロナ・ブックス)
- 平凡社
- 2008-08-25
- 本
ちょっとパラパラ見てみようかな、と思って開いたら、面白くてぶっ通しで読んでしまいました。
なるほど、春画がわ印と呼ばれていたのがわかりました。
なるほど、春画がわ印と呼ばれていたのがわかりました。
それにしても日本のエロ文化はすごいですね。
大体今想像されるエロいイメージはすでに江戸時代には考えつくされている感じがしました。
逆に言うと、江戸時代と今の違いは、性的な規制のみであって、本質は変わらないのかなと思います。
多分それは、生理的なことだから仕方がない。というのが、『性のタブーのない日本』の言うところにつながる気がする。
背徳的なところが一切なく、自由奔放なまぐわいが描かれておりました。
不思議なことに、全然興奮しません。
裸のハマのほうが控えめなのによっぽどそそります。
ひょっとして、抑圧された西洋の人々のほうが、エロの発散と実用性に向かったんでしょうかね。
大体今想像されるエロいイメージはすでに江戸時代には考えつくされている感じがしました。
逆に言うと、江戸時代と今の違いは、性的な規制のみであって、本質は変わらないのかなと思います。
多分それは、生理的なことだから仕方がない。というのが、『性のタブーのない日本』の言うところにつながる気がする。
背徳的なところが一切なく、自由奔放なまぐわいが描かれておりました。
不思議なことに、全然興奮しません。
裸のハマのほうが控えめなのによっぽどそそります。
ひょっとして、抑圧された西洋の人々のほうが、エロの発散と実用性に向かったんでしょうかね。
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- 性のタブーのない日本 (集英社新書)
- 集英社
- 2015-11-17
- 本
30代子持ち男性サラリーマン。
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