帝国主義(幸徳秋水、岩波文庫)




先日、幸徳秋水著の『兆民先生』を読んで、もう少し同氏の別の書も読みたいと思って帝国主義 (幸徳秋水、岩波文庫)を読んで見ました。
兆民先生(幸徳秋水、岩波文庫)

これでもかというほど執拗に帝国主義(暴力を持って領土拡大をすすめる国の姿勢)を批判し続けていました。
軍人の主張する軍備拡充の必要性を、一つ残らず叩き潰す感じ。
痛快です。
曰く、
・戦争によって、経済が疲弊している
・戦争によって、芸術、文明が破壊されている
・暴力的な組織(軍隊)が、社会的規範を破壊している
・軍隊が暴力を呼ぶ
・戦争をしたいと思うのは動物的本能である
などなど。

確かに、戦争はかなりお金を必要とすることが、本書を読むとわかりやすく解説されています。
ただ、問題なのは、そのお金のかかるところが極端に偏るというのが問題で、多くの費用は戦争に関連する産業にしか回らない。
そして、福利の方は手薄になる。
そうすると、結局貧乏な人ほど大変になり、社会が回らなくなるということですね。
至ってその通りです。

工業製品の生産過剰についても、中産階級以上は貧民の労働力を搾取することで海外展開するほどの生産力を持つけど、その海外進出する原因(国内の需要量を生産量が上回ってしまうの)は国内の人々から購買力がなくなるためだということを指摘しています。
これはまさに資本論に通じるものではないのでしょうか?
というか、社会主義者と自分で言っているくらいなのですから、多分そうなのでしょう。

この本を読むと、社会主義の本来の意義というか目的がわかってくる気がします。
「格差の是正」、それにともなう「平和」こそが、幸徳秋水の思い描く社会主義の世界だったのでしょう。

社会主義は、私達の中では基本的に「失敗作」として理解されているように思います。
しかし、その思想のいいところを、うまく今の社会に取り込まないと、今後ますます格差は広がり、やがてまた凄惨な事件を起こすような気がします。
ということで、ぜひベーシックインカムを導入してほしいなぁという思いを新たにしました。
ベーシックインカム関連記事

ところで、改題を読むと、幸徳秋水のこうした「平等」「博愛」「平和」という思想は、中江兆民から受け継いでいるとの記載がありました。
そう書かれてしまうと、中江兆民の作品も読みたくなってしまいます。
とりあえず、三酔人経綸問答 (岩波文庫)を読んでみようかなぁと思います。

また、改題では、本書を中江兆民に事前に見せてやり取りをしたのが『兆民先生』内の書簡のやり取りに当たるとの解説もされていました。
なるほど、そういうことだったのかと腑に落ちました。
原著を読んでから誰かの解説を聞くというのも、面白いものですね。

また、同氏の著書で面白そうな本があったので、借りてみました。
書名はズバリ『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』。
どうも基督を当時の天皇のスケープゴートにして批判をしたという疑いをかけられている作品のようです。
でも、そんなことどうでもいいくらいに、基督教をボコボコにしています。
イエスキリストは、当時こんなにも無名だったのかと思うと、一体今のキリスト教とは何なのだろうかと思わずにはいられません。
先日『旧約聖書物語』を読み終えて、『新約聖書物語』を今度読もうと思っていたのに、一体どういう心持ちで望めばいいのやら・・・。
でも、”物語”だから、その時の”つもり”で読めばいいのか。
旧約聖書物語(犬養道子、新潮社)

そういえば、本書の序では、キリスト教徒の内村鑑三が文を寄せていました。
内村鑑三が『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』を読んだら、なんというのか、非常に興味がわきます。
友達の思想をこてんぱんにすることに、抵抗はなかったのだろうか。
ネットで調べた限りでは、あまりそういう資料は残ってなさそうですが、今度内村鑑三の著書も読んでみたいものです。

また、当のキリスト教徒やキリスト教会は、この辺の事実をどう捉えているのだろうかとも気になります。
別にキリストがいたかどうかは関係ない、聖書が聖書として信じられてきたことが大事なのだ、という論説もあるかもしれませんが、胡散臭さを拭い去ることはできないでしょう。

それにしても、キリストがいたのかどうかなんて、考えたこともありませんでした。
私はてっきりいたものかと思っていましたが…頬に平手打ちを受けたような思いです。

ちなみに、『クルアーン』(イスラム教)では、キリストを預言者としては認めているものの、メシアとしては認めておらず、同様に三位一体説も否定をしています。


    

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