理系以外に大学で勉強する必要がどこあるのか?というのは、私が大学へ進学するにあたって考えていたことです。
大学を卒業して10年近く経ちますが、まぁなんと見識の狭いことかと恥ずかしくなります。
いろいろな本を読んでみれば、理系でなくても大学に行く意義は非常に大きいことに気づきます。
特に、美術の世界を覗いてみると、大学教授の先生方や美術史家の先生の功績は非常に大きいと思います。
どう貢献しているかといえば、作品の凄さに何らかの影響を与えている、という意味ではなく、庶民が美術を楽しむのに非常に役立つ知見を数多く提供している点が挙げられます。
素晴らしい作品は、たいてい何か別の素晴らしい作品(作風)に立脚しているものです。
あるいは、そういう流れからではなく、彗星の如く飛来した天才もいるでしょう。
いずれにしても、歴史という基準を知らずしては、美術の面白さは半分近かく失われるはずです。
どんな作品を師としたのか、そしてそれをどう越えたか、どんな時代背景で書かれたか、何を意図しているのか、こういった問について、専門の教授や美術史家たちが時間をかけて推察した仮説や結論は、様々な要素と絡み合って私たちに迫ってきます。
大いなる伏線回収を美術史家の皆さんはされているのだと言えましょう。
このことに気づいたとき、私は美術鑑賞の楽しさに目覚めました。
私個人は、そもそも絵心というものが欠落しており、小中高と美術の授業がからっきしだめでした。
大概、技術を持ち合わせない実技の授業は辛いものです。
音痴の音楽、足の遅い体育、不器用な家庭科、いずれも苦痛でしょう。
私にとっては、美術はそれらと同列のものでした。
すなわち、絵心なき美術ですね。
しかし、自分の能のなさを棚において振り返るならば、どうして美術が実技に重きをおいていたのか、それが気になります。
(この思いの半分は、絵心ない者の僻みです)
もっと鑑賞に力を入れても良かったのではないか。
実技としての美術は、興味のある子が放課後に習えばいいのではないか。
そんなことを思います。
芸術は、その存在にすでに価値があります。
芸術との向き合い方は、自由だと思いますが、ある作品と向き合って自分が下した価値と世間が下している価値のギャップを見つめるという授業も、なかなかおもしろいのではないでしょうか?
こうした「自分はどう面白いと思ったのか」を掘り下げる練習をしておくと、芸術鑑賞のハードルを下げることにつながると思います。
また、鑑賞に上手い下手はなく、自分が面白いと思えるかどうかが重要である、という気づきは、日常生活においても自身を助ける気づきだと思われます。
面白いと思えない理由も含めて考えることができるとしたら、多分もう大学入学資格は与えてもいいのではないかとさえ思えます。
「美術鑑賞なんて教えて何の意味があるのか?」と問われれば、「様々なきっかけを与えることができるのではないか?」と答えたいです。
芸術に興味を持てば、歴史に興味を持つようになります。
また、言語や文化にも関心を持つことでしょう。
題材に目が向くならば、自然科学に興味を持つ子も出てくるかもしれません。
これが役に立つかどうかはまた別のお話ですが、少なくとも少しだけ人生に幅ができるはずです。
初等教育においてはひとまず絵を描くという身体的な授業があることは構いません。
友だちと楽しく、のびのび書けばいいのです。
しかし、中等教育以降においては、ぜひとも鑑賞にも、もう少しウェイトを置いていただければ、子どもたちの将来が、より豊かになるのではないかと、そんな期待をしています。
(とはいえ、私が中高生だったのは、もう20年近く前なので、今はもう授業も変わっているかもしれません)
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