幸せな世界とは(AI時代の新・ベーシックインカム論から③)

先日読んだ『AI時代の新・ベーシックインカム論』を踏まえて、特にVR技術について思うところを書いてみたいと思います。
本書の面白い点の一つに、BIとAIの話が中心になっていると思いきや、最後はVR(ヴァーチャルリアリティ、仮想現実)の技術についての警鐘で幕を閉じるという点があげられると思います。
本書の中でも突然湧いて出てきた感が否めないこのVR技術は、私たちの暮らしを根本から変えてしまうといいます。
著者は、VR技術の発展した世界を、映画『マトリックス』で例えていますが、それを聞いて私はハックスリーの『すばらしい新世界』を思い出しました。


人間は受精卵の段階から培養ビンの中で「製造」され「選別」され、階級ごとに体格も知能も決定される。また、あらゆる予防接種を受けているため病気になる事は無く、60歳ぐらいで死ぬまで、ずっと老いずに若い。ビンから出て「出生」した後も、睡眠時教育で自らの「階級」と「環境」に全く疑問を持たないように教え込まれ、人々は生活に完全に満足している。不快な気分になったときは、「ソーマ」と呼ばれる薬で「楽しい気分」になる。人々は、激情に駆られることなく、常に安定した精神状態である。そのため、社会は完全に安定している。ビンから出てくるので、家族はなく、結婚は否定されてフリーセックスが推奨され、人々は常に一緒に過ごして孤独を感じることはない。隠し事もなく、嫉妬もなく、誰もが他のみんなのために働いている。一見したところではまさに楽園であり、「すばらしい世界」である。すばらしい新世界 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

こうやって考えてみると、マトリックスとすばらしい新世界が描こうとしているのは、非常に近いものがあると思います。
そこで問われているのは、「自分の知っている世界とは別の世界があり、別の世界から自分のいる世界がコントロールされているということを、知らないほうが幸せかどうか」でしょう。
私個人としては、さっさとすばらしい新世界のような世界が訪れることを願っておりますが、そのことが人間の営みとして正しいかどうかは、個々人意見の別れるところでしょう。
正直今に生きる私としては、違和感は感じまくりです。
そして、結局のところ、どんな世界を作ったとしても、ネオやジョンのような人間は出てくると思います。
なぜなら、これまでだって自分の知っている世界が、別の誰かにコントロールされているという状況は多々発生しましたし、人々はそこから脱することで文明が発展してきたからです。

たとえVRで一部(あるいは大多数)の人が「誰も傷つかない優しい世界」に没頭したとしても、おそらくそれとは違う世界(VRを排除した世界)が形作られるように思われます。
その世界とは、「人間の、人間による、人間のための社会」とでも標榜した世界になるのではないかと想像されます。
問題は、その2つの社会が共存できるかどうかではないでしょうか。
特に、人間の社会側が、VRの世界に生きる人々を許せるかどうかが重要になる気がします。

私は、できればVRの世界に住みたいし、そこで生きることを放っておいてほしいと思います。
皆さんはどうでしょうか?

ちなみに、本書では、VR世界の「人間社会としての欠落」した点を儒教やコミュニタリアニズム、アレントの視点から見つけつつも、だからVR世界がだめなのかというと、結論はすぐに出せないと締めくくっています。
確かに、VRに人々が溺れてしまうことは、意思のない個人を作り上げてしまう可能性があります。
そもそもその人を一人の人間としてカウントするかどうかについても、議論があるかもしれません。
マトリックスでは、だからこそ機械が世界を運用していたのでしょう。

果たして、私たち人類は、そのような世界を選ぶのでしょうか。
正直、そこに至る道筋が、私には全くイメージできないというのが、正直な感想です。
VR世界には浸りたいけど、想像力が追いつかない、もどかしい気分です。
ということで思いは答えに至らず、結局、「これまで通り生きていくことになるのではないか」という、面白くもない締めくくりになってしまいました。



ハクスリーは、『すばらしい新世界』では皮肉を持ってディストピアを描いたようですが、『島』という作品ではユートピアを描いたようです。
こちらも読んでみたいなぁ(と思うけど、古書なんですね)。

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