『マインド・コントロール(増補改訂版)』(岡田尊司著、文春新書)を読み終えました。
知っているか知らないかで、それこそ人生を変えるかもしれない、そんな内容でした。
人は、こうも簡単な原理でマインド・コントロールに陥るものかと驚きます。本書の中でも、近年「自由意志」に対する信仰に近い考えがあらたまり、本人の思想・行動に強制的な介入も認められるようになってきた、と語られていますが、たしかに自由意志というものが如何に心もとないかを考えさせられます。
恐ろしいのは、「私」はそれを望んでやっている、と「思わせられる」こと。自覚がないことですね。
本書のいいところは、マインド・コントロールの発展してきた歴史やマインド・コントロールのかけ方という技術的な側面に限らず、どうやったら自分や周りの家族たちを守ることができるかという対策の側面にも触れているのが良いと感じます。
もちろん、それを知っているからといっても、拉致、監禁の後に強制的なマインド・コントロールをされてしまえばどうしようもないのですが、日常生活上でのマインド・コントロール(に近いもの)とは一定の免疫を持って立ち向かえるようになれそうです。
ポイントは「自立と依存」。結局は自分の人生を主体的に生きようとしているかどうかが、マインド・コントロールにかかりやすい・かかりにくいを決めているようです。
自分の場合はどうか、と振り返ってみると、私はどうも(特に仕事において)嫌なことをする人に積極的に関わろうとする傾向があるのを感じます。
多分コミュニケーションを重ねることで、心理的・肉体的な不快感が少なくなるようにする無意識の処世術なのでしょうが、これはある意味において嫌なことをする人に縛られている(依存している)状況ともみれます。
…気をつけようと思います。
また、依存の話で出てくるのは、家族の絆が重要という、割りと一般論的な話がされます。
結局は、普遍的な愛やつながりを求めるが故に、マインド・コントロールによって別のものがその普遍的愛やつながりを約束し、その人の価値観を換えてしまうわけです。
だから、安全地帯としての家族というユニットが正常な関係を回復した時、その人のかかっているマインド・コントロールは前提を失い、もろくなるようです。
近年、自己実現に重きが置かれ、家族の価値が少しずつ低下していると感じるのは私だけでしょうか。こうした時代において、マインド・コントロールの危険性が拡大しているという強い懸念を感じます。
本書は、洗脳やマインド・コントロールの歴史にも多くの紙面が割かれています。
マインド・コントロールの歴史は、戦争の歴史と、近代では大衆コントロールの歴史とリンクしていますので、必然、戦争や広告、選挙の手法の遷移についても学べるという趣向になっていました。
また、仕事や人間関係に活かせるテクニックも多く、非常に参考になる本だとも感じます。
矢継ぎ早に話す、善意の第三者になる、相手に共感してみる、断定を避ける、付加疑問的な会話・投げかけをする、などがそれです。
これらのテクニックは、マインド・コントロールの発展とともに編み出された手法を応用して、日常生活を有利に生きるための知恵と考えることもできますが、当然悪徳商法にも使われるため、上のような手法で何か自分に訴えかけてくる人には、よく注意したほうがいいと思われます。
便利は危ない。
危ないは便利。
そんなマインド・コントロールの大まかな概念がつかめる本でした。
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